ミャンマーでは西暦いわゆる太陽暦だけでなく、ビルマ暦(緬暦)の太陰太陽暦も採用されています。
太陰太陽暦というのは、月の満ち欠けだけで決める「太陰暦」を基本とし、日本などが採用している太陽の動きだけを考えた「太陽暦」の要素も取り入れた暦です。
太陰暦だと、月が満ちるのは29または30日周期のため一年は約354日となり、太陽暦よりも約11日短くなってしまい、暦と季節が合致しなくなっていきます。
3年ごとに約1か月のずれが生じるので太陽暦を参考に「うるう月」を追加し、13か月の年を設けている暦が太陰太陽暦です。
政府の公的な文書や法律、国営新聞の発行日には西暦だけでなく必ずビルマ暦も併記されています。
また農業に携わっている人はビルマ暦で作業をすることが主流で、西暦よりもよく使用されていて耳にする機会が多いです。
ビルマ暦は、新月の翌日から新しい月が始まります。
少しづつ月が満ちてゆき15日後に満月となり、そして14日または15日かけて月が姿を消す新月を迎え、翌日から新しい月に変わります。
各月には名称があるので見てみましょう。
ビルマ暦の名称
第1月 ダグー Tagu တခူး 暑季
西暦3-4月頃
西暦の4月中旬、水かけ祭りのあと新しい年を迎えます。
第2月 カソン Kason ကဆုန် 暑季
西暦4-5月頃
カソン月の満月の日、ブッダが菩提樹の下で悟りを得たことから菩提樹に水をかけるお祭りがおこなわれます。
第3月 ナヨン Nayon နယုန် 暑季
西暦5-6月頃
雨が降り始め、暑季が終わります。
農作業が始まる月で、豊作を願って精霊に祈りを捧げます。
翌ワーゾー月になると仏教徒は結婚式を挙げない習わしがあり、かけこみ結婚式が多いです。
第4月 ワーゾー Waso ဝါဆို 雨季
西暦6-7月頃
雨安居に入り、僧侶は移動をせず僧院で修行に励み、在家仏教徒も戒律を守ります。
仏教徒は引越しや結婚式などを控えます。
数年に一度、うるう月を用いて1年が13ヶ月になるのですが、この月で調整。
第1ワーゾー、第2ワーゾーとなります。
第5月 ワーガウン Wagaung ဝါခေါင် 雨季
西暦7-8月頃
中央乾燥地で雨量の少ないタウンビョンの町で精霊ナッのお祭りがおこなわれます。
第6月 トータリン Tawthalin တော်သလင်း 雨季
西暦8-9月頃
ボートレースがおこなわれます。
第7月 ダディンジュ Thadingyut သတင်းကျွတ် 雨季
西暦9-10月頃
雨はあまり降らなくなり、雨季の終わる月。
満月の日に雨安居が明け、この日を境に一斉にお祭りやイベントが開催されます。
満月の夜には灯明祭をおこないます。
第8月 ダザウンモン Tazaungmon တန်ဆောင်မုန်း 乾季
西暦10-11月頃
満月の夜、袈裟を織り上げる大会や灯明祭がおこなわれる。
ダディンジュ満月の日からダザウンモン満月の日までの間に僧院へさまざまな品物を寄付するカテインというお祭りがおこなわれる。
第9月 ナドー Nadaw နတ်တော် 乾季
西暦11-12月頃
その昔、精霊(ナッ)信仰の儀礼がおこなわれたていたことからナドー月と呼ばれるようになりました。
満月の翌日に文芸賞の授賞式が開催。
演説会も多くおこなわれます。
第10月 ピャードー Pyatho ပြာသို 乾季
西暦12-1月頃
王朝時代は武術大会がおこなわれていました。
現在は健康やスポーツに関するイベントが開催され、1月4日の独立記念日には各地区で運動会がおこなわれます。
第11月 ダボドゥエー Tabodwe တပို့တွဲ 乾季
西暦1-2月頃
最も寒い季節のため、身体を温める食材を用い、タマネと呼ぶ餅菓子を作るお祭りがおこなわれます。
第12月 ダバウン တပေါင်း Tabaung 暑季
西暦2-3月頃
仏塔のない地域や川沿いでは、砂で仏塔を作るお祭りをおこないます。
ミャンマーの一年を追いかけた写真「ミャンマー歳時記」がポートフォリオにあります。
お祭りの様子などが見れますので、ぜひ覗いてみてください。
ミャンマーカレンダーを見てみよう
縦に日付が並ぶカレンダーもよく見かけます。
これは2022年4月のものです。
たまたまなのですが、4月1日はビルマ暦の最初の月・ダグー月の1日です。
マスの右上にはビルマ数字が書かれてあり、ビルマ暦の何日目なのかを表しています。
ちょうど1日が月のはじまりのためビルマ数字とアラビア数字は同じになっています。
15日の赤丸の意味は満月を表しています。
満月の翌日、16日から右上のビルマ数字は再び1からカウントしていきます。
14日後の29日の青丸は新月を意味しています。
翌30日から新しい月となり、第2月のカソン月になりました。
例えば、4月6日のビルマ暦を日本語に訳すと「ダグー月・白分6日」です。
ビルマ語では「ダグー ラサン チャウッ イエッ တန်ခူးလဆန်း ၆ရက် 」いいます。
白分とは新月から満月に向かう半月間のことを指しています。
満月から新月に向かう半月間のことは黒分といいます。
月が欠けていき暗くなっていくイメージですね。
新月 ラコェလကွယ်
白分(上弦)ラサン လဆန်း(新月から満月へ向かう半月間)
満月 ラビィ လပြည့်
黒分(下弦)ソウッ ဆုတ်(満月から新月へ向かう半月間)しかし、ラビィチョー လပြည့်ကျော် (満月を過ぎて) を使用されることの方が多いです。
布薩日ってなに?
よく見ると4月8日の右上は赤色で「၈」とビルマ数字が書かれてあります。これは「8」です。
何を意味しているかというとこれは布薩日を示しています。
布薩日とは、仏教の戒律を特に意識して過ごす日です。
毎月、満月と新月の日、白分8日と黒分8日の4日あります。
ビルマ語ではウポウッネ ဥပုသ်ေနေ့ と呼びます。
この年のダグー月の布薩日は、西暦でいうと4月8日、15日(満月)、23日、29日(新月)ということになります。
ビルマ暦・第1月の1日が新年ではない理由
ミャンマーの新年は、ビルマ暦の第1月であるダグー月の白分1日かと思いきや、そうではありません。
どの本も西暦の4月頃とか4月中旬と説明しています。
私の知る限り、毎年4月17日がお正月です。
わざわざ4月頃とぼやかしているのだから、4月17日以外の日で新年を迎えた日があったのかと思い、100年カレンダーという本(売られているんです!)やビルマ暦アプリで調べてみました。
4月17日以外の日で、お正月だったという年はみつけられませんでした。
ただ将来的には4月17日ではなく、16日または18日が新年になる可能性もあるので、4月中旬が新年と書物には書かれてあるのでしょう。
これは憶測なので、どなたかご存知だったら教えてください。
ちなみに西暦2022年の新年は4月17日で、ビルマ暦でいうとダグー月・黒分2日。
ビルマ語では、ダグーラビィチョー ニ イエッ တခူးလပြည့်ကျော် ၂ရက် でした。
それにしても、なぜ西暦の4月17日が新年なのでしょう。
「ミャンマー概説」という本に詳しく書かれてあるので引用します。
ビルマ暦新年が始まるのはダグー月 (西暦4月頃)である。 新年を迎えるまで の数日を「ティンジャン(ダジャンとも発音する)」と呼ぴ、この期間は、朝から夕 方まで互いに水をかけ合う。
「ミャンマー概説」株式会社めこん 編 伊東利勝
~中略~
この期間は、帝釈天が地上を見に降下すると信じられており、降下の瞬間からティンジャンが始まる。 現在では「ミャンマ一連邦暦顧問委員会」が帝釈天 の降下時刻や新年の正確な日時を、秒に至るまで計算し発表している。
P140 土佐桂子
なんと計算によって新年が決まっているという訳なのです。
さぁ、来年のミャンマー新年はいつになるなのでしょう。
西暦とビルマ暦の差は638年
ミャンマーでは新年の前に水をかけあい、その年の穢れを洗い流し、すっきり綺麗な身になってお正月を迎えます。
ここでまたひとつ、すっきりしない問題があります。
西暦2022年4月17日に迎えた新年は、ビルマ暦では2022年ではなく1384年なのです。
2022年のカレンダーには「1383-84 年 ၁၃၈၃ - ၈၄」と書かれてあります。
2022年 - 1384年 = 638年
新年を迎える前の1~3月は、西暦と639年の開きがあり、新年後の4月以降は638年の差があるのです。
この誤差問題については「ミャンマーを知るための60章」という本に説明があります。
緬暦の年数の数え方は独特である。特定の出来事を基点にした年数よりも、数字の持つ吉凶を重要視することがあり、不吉な数字と見なされる年数を避けるための操作が史上何度か行われたとされている。
「ミャンマーを知るための60章」明石書店 編著 田村克己・松田正彦
P77 石川和雅
幾度も不吉な数字を避けたことで誤差が生まれたんですね。
さすが数字にこだわりがある人たちです。
ビルマ語の資料に正確な日付がなく、〇〇〇年(ビルマ暦)とだけある場合は、一般的に638年をプラスして西暦に変換する人が多いと思います。
1384年のビルマ暦を西暦でいうと?
第1月 ダグー Tagu တခူး 暑季
2022年4月1日~29日(満月:4月15日)
第2月 カソン Kason ကဆုန် 暑季
2022年4月30日~5月29日(満月:5月14日)
第3月 ナヨン Nayon နယုန် 暑季
2022年5月30日~6月27日(満月:6月13日)
第4月 ワーゾー Waso ဝါဆို 雨季
2022年6月28日~7月27日(満月:7月12日)
第5月 ワーガウン Wagaung ဝါခေါင် 雨季
2022年7月28日~8月25日(満月:8月11日)
第6月 トータリン Tawthalin တော်သလင်း 雨季
2022年8月26日~9月24日(満月:9月9日)
第7月 ダディンジュ Thadingyut သတင်းကျွတ် 雨季
2022年9月25日~10月23日(満月:10月9日)
第8月 ダザウンモン Tazaungmon တန်ဆောင်မုန်း 乾季
2022年10月24日~11月22日(満月:11月7日)
第9月 ナドー Nadaw နတ်တော် 乾季
2022年11月23日~12月21日(満月:12月7日)
第10月 ピャードー Pyatho ပြာသို 乾季
2022年12月22日~2023年1月20日(満月:1月5日)
第11月 ダボドゥエー Tabodwe တပို့တွဲ 乾季
2023年1月21日~2023年2月18日(満月:2月4日)
第12月 ダバウン တပေါင်း Tabaung 暑季
2023年2月19日~2023年3月20日(満月:3月5日)
※ 英語表記は現地での一般的な綴りを記し、カタカナ表記はビルマ語の発音に合わせました。
季節について
季節区分は雨季と乾季ですが、ミャンマーでは暑季、雨季、乾季の3つに分けて呼びます。
上記にもこの3つの季節区分を示しておきました。
ビルマ語で季節のことをヤーディー ရာသီ といいます。
暑季 ヌェヤーディー နွေရာသီ
雨季 モーヤディー မိုးရာသီ
乾季 サウンヤーディー ဆောင်းရာသီ
※ ○季ではなく○期、乾季を涼期と訳す人もいます。
暑季は暑くて溶けそうになり、雨季になると容赦なく毎日1度は土砂降りの雨が降り、乾季は暑くも寒くもなくちょうどいい気温で過ごしやすいです。
見事なくらい暑季と乾季はほとんど雨が降りません。
けれど年間を通じ、折りたたみ傘を携帯する人が多いです。
それは乾季でも日中は日差しが強いので日傘として使うため。
ミャンマーを訪れる際の必須アイテムはなんといっても傘です。
もちろん現地でも買えますのでご安心を。
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